「出来たの」

昼休みに突然かかってきた電話で、そんなことを言われて
とっさに「何が?」と聞き返してしまった。

「出来たの」

そう繰り返されて眩暈がした。

浅はかなあたしの友人のウララは、最低な男に恋をしていた。
ここ5年くらい、ずっと。
それはまぁセフレのような関係だった訳なんだけれど。
ついに恐れていたことが起こったのだ。
ウララの中には今、ひとつの命が宿っている。

「いつわかったの?」
「今週入ってすぐ」
「相手はアイツなのね?」
「うん」

馬鹿。だからやめとけってあれほど言ったのに。

「アイツ、マジで最低だった。」

今頃わかったのかよ。

「うまないことにしたの」

そう。

「アイツ、同意書にサイン、しようとしなかったんだよ」

切れ切れに言われて、あたしは黙るしかなかった。

「もしかしたら2人で親になるって選択肢も、あるのかなって思ってたの」

甘いよ。
そう思ったけど、あたしは黙ったまま聞いた。
聞いてあげることしか、出来ないから。

「ほんまに俺の子なん?」
心底嫌そうに彼は言って、彼女に癇癪をぶつけたという。
ついでに言うなら彼は費用の負担すらも拒否した。

「好きだったの」
最後に、消え入るような声で、恥じるように言われた。
つけこまれた。あのいまいましい男に、彼女はずっと惚れた弱みでつけこまれてきたのだ。
よく知りもしない相手に対して、初めて殺意を覚えた。

彼は最低だ。こんな事態になるのはこれで3度目だと聞いた。
ウララは浅はかだ。最低な奴だと、ずっと気づいていたはずなのに。
どちらか一方だけに、非があるなんて思っていない。
成人した男女が、合意の上で重ねた行為なわけだし。

だけど、あえて言う。
あの男は絶対に、いい死に方をしない。

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