たたかうということ

うちの弟は今、イジメにあっているらしい。
離れて暮らしているあたしは、そんなこと言われるまで気づきもしなかったのだけど。

実はあたしも昔、イジメられていた。
日本に帰国したばかりで日本語少しおかしかったし、存在自体が異質だったからかもしれないけど。
いずれにせよ明白な理由は知らない。
初めは皆が寄ってきてうるさいくらいだった。
でも、興味が薄れたところで、あたしは仲間はずれになった。

辛かった。
勝手に学校を抜け出して帰ってきてしまったこともあった。
そして、親に泣かれた。
ちゃんと学校に通ってくれと。
泣きたいのはあたしだよ。そう思った。
だれもあたしの状況なんか理解してくれない。
そう悟った。
それからは、たたかった。
やられれば必ずやり返した。
褒められたコトではもちろんないけど、はじきとばすにはそれしか思いつかなかった。
倍返しした。耐えるなんて真っ平だと思った。

そのうち隣の学区に引越しが決まって、あたしは転校した。
転校先ではなんの問題もなかった。
友達がたくさん出来た。
中学には前の小学校の子たちも合流した。だけどあたしは大丈夫だった。
もうたくさんの仲間がいたし。

英語の授業がはじまり、スピーチコンテストの類が開催されると、当然だがあたしは目立った。
本当は目立つのがすごく嫌だった。
自分の英語の発音が皆と違うことが恥ずかしかった。
またイジメにあったらどうしよう。弱気にもなった。
でもあたしには友達がいて。
恥じることは何一つとしてないと言ってくれた。
カッコいいと言ってくれた。

乗り越えられたんだと思った。
あの時、いじめられたとき、たたかって良かったと思った。
あの時逃げなかったから、転校先でも堂々としていられた。

弟は気の優しい子だ。気弱だと言ってもいい。
やり返すなんてあの子に出来るわけないじゃないの！
と母は言った。
確かに女と男では違うのかもしれない。

だけどね。
どんなに先生に相談しても、どんなに親が出しゃばっても、
最後は自分しか自分を守れないんだよ。
たたかわないと、駄目なときもあるんだよ。

なにも出来ないことが悔しい。
あたしも同じような目にあったのに。
どうかあたしの可愛い弟が、逃げずにたたかえますように。